創業者でオーナーの原田隆が「思い出のおもちゃたち」というテーマで不定期のコラムを書きます。(前回記事 vol.1 汽車 レールがないものはこちら)
-----------------------------------------------------------------------------
──ミッキィの鉄道おもちゃたち
(以下カタログとあるのは全てアトリエニキティキのカタログです)
●BRIOとミッキィ、2つの世界
木製のレールおもちゃといえば、まず名前が挙がるのがスウェーデンの「BRIO(ブリオ)」でしょう。
しかし、私たち「つみきや」では、主にアトリエニキティキを通して「ミッキィ(MICKI)」の製品を扱ってきました。
プラスチック製の「プラレール」は別として、近年では日本のメーカーも木のレールを使ったおもちゃを多く手がけています。新幹線や有名列車をデフォルメしたデザインは親しみやすく、機関車トーマスのようなキャラクターものも根強い人気です。
けれども、歴史あるBRIOやミッキィは、そうした“模倣”とは違うアプローチをとっています。彼らの車両はあくまで 「子どもの想像に委ねるデザイン」。何の電車か決まっていないからこそ、遊ぶ子ども自身が“それ”にしてしまえるのです。
●ミッキィの70年は「変わらない強さ」
ミッキィの鉄道シリーズは、ニキティキのホームページによると70年ほど歴史があるようです。私はこの業界に関わってからのことしかわかりませんが、その40年は基本何も変わっていません。レールの寸法や列車の幅・長さも統一され、世代を超えて互換性を保っています。これは本当にすごいことです。
ただし、姿を消した車両や付属品は少なくありません。1986年発行のカタログ第1号と今の最新版を比べると、セット内容やパーツ数は絞られ、淘汰されたものも多いのです。
NIKITIKI
カタログ No.01 | ニキティキ デジタルカタログ
●伝説の列車「オリエント急行」とその変遷
列車で大きく変わったのは、「オリエント急行」がなくなり、新幹線が登場したことでしょう。他はせいぜいマイナーチェンジという印象です。
赤いオリエント急行は3両を接続していないと自立できないという変わった車両でした。カタログ第5号(1994年)まで掲載され、その後は青いラインの「エクスプレス」が登場。窓はくり抜きから印刷へ、名称は「NEWエクスプレス」になりました。
ちなみに第5号には、新幹線の“参考掲載”も見られます。おそらく日本市場向けに特別に作られたものでしょう。
NIKITIKI
カタログ No.05 | ニキティキ デジタルカタログ
●幻の「トラム」と黒い機関車
忘れがたいのは2010年発行の第11号で登場した「トラム」。青く小さな路面電車風の列車で、オリエント急行と同じ3両編成ですが、両端に車輪があり真ん中の1個がなくても自立できました。かわいい列車でした。しかし2014年(第12号)を最後に姿を消しました。
同時期に登場した真っ黒な機関車3両も、あまり人気が出ず早々に消えてしまいました。どちらも“幻の車両”といえるでしょう。
NIKITIKI
カタログ No.11 | ニキティキ デジタルカタログ
●失われた付属品と「格納庫(大)」の思い出
付属品に目を向けると、カタログ第1号にあったものの多くが姿を消しました。
- 267-2 鉄橋(大)
- 266 橋
- 275 待合室
- 271 格納庫(大)
- 297 フォークリフト
- 134 M家作りセット
その他、「264 はねばし式鉄橋」や「269 駅」などはデザインを変えて残っていますが、昔のものはシンプルで、すっきりしていました。
今の「つり橋」はデザインこそ凝っていますが、遊びにくさがあります。汽車を子どもが手で持って渡るとき、一度手を離して持ち直さなければならないのです。
そして、やはり忘れがたいのが「格納庫(大)」です。現在のエンジンハウスにはない風格があり、これがあると車両基地らしい雰囲気になります。回転するレールに車両を運び、所定の場所に移動させる──この作業は子どもにとって大きなわくわくでした。
ただ、構造をよく見るとコストがかかりすぎていたのもわかります。レールは上下二重構造で、ジョイントの半分を削らなければ上のレールが回転しない仕組み。デザインも凝っていて当然高額になり、販売量は伸びなかったのでしょう。おそらくメーカーでは早々に生産を終え、ニキティキは在庫で対応していたのでは、と推測します。
●電動化に頼らず、想像の力で
BRIOが電動機関車を展開するのに対し、ミッキィは一貫して電動化を避けてきました。一時、電池で音が鳴る車両がありましたが、長続きはしませんでした。
今や木製レールの市場は群雄割拠ですが、ミッキィはシンプルさと想像の余白を守り続けています。
それは「子どもが自分で物語を作れる余地」を残しているということ。
それが、ミッキィの素晴らしさだと思います。
