《さくらの大冒険 開発ストーリー vol.4》 (津村修二)
最終章となるvol.4では漫画説明書と箱について書きます。
【漫画説明書】
2018年5月。百道小留守家庭へ「さくらの大冒険」のテストプレイに行った帰りの車の中で、どんな説明書にしようかとスタッフの原田圭悟と話をしていた時、原田から「説明書を全部漫画にしたらどうか」というアイデアが出ました。「ゲームの説明書を読むのは電化製品の説明書を読むのと同じくらい難解と感じる人が多い。それなら漫画で説明書を作ったら楽しく読んでもらえるのではないか」と。私はそれを聞いて「なんて画期的なアイデアなんだろう!」と共感。それが今回漫画で説明書を作ることになったきっかけです。
しかし、数あるボードゲームの中で、説明書の全てを漫画にしたもの(ストーリーの導入部だけ漫画というのはありましたが)は前例がなく、どのように作っていったらいいか、全くの手探り状態でした。
最初に考えたのは、ボードゲーム好きの男の子がクラスの友達を家に呼んできて、「さくらの大冒険」をプレイしながら、ルール説明をする形式。主人公の男の子が友達からの質問に答えながら、ルールを説明していきます。以下のラフ案は私が書いたものです。
ただ、このやり方だと会話の数が多くなり、ページ数が膨大になることに途中で気づきました。説明書は見開き8ページ(A5サイズ)で収めたかったので、これは難しいなぁと。
それに、漫画の主人公も、ボードゲーム好きの男の子ではなく、さくらにした方がストーリーと直結する分、読み手も臨場感があって楽しいだろうと考えました。例えるなら、遊園地のアトラクションが始まる前に、ガイドスタッフがお客様を巻き込んでいくような、あの感覚です。アトラクションの登場人物になりきったガイドスタッフがその物語のストーリーテラーとなり、実際のアトラクションの説明や注意事項を含め、お客様を導いていく方式は、読み手を物語の傍観者ではなく、登場人物にできる最適な方法ではないかと。
じゃあ、さくらを主人公にして、どんな形で漫画を展開すれば読み手を夢中にさせられるのか。
そこで私は、もともと考案していたゲームの物語をそのまま漫画に取り入れることにしました。さくらが図書館で古い書物を読んでいた時、偶然にも黄金バナナの伝説について書かれた本と出会い、さくらは持ち前の好奇心からそれを手に入れるべく冒険の旅へ繰り出すという物語です。
漫画についてもイラストレーターの大野さんに依頼したのですが、この物語案から、こんなラフスケッチを描いてくれました。私の中の想像の世界が一気に広がった瞬間でした!
それから少し経った時、さくらが自分でルール説明をするより誰か別の人物が旅の案内人となって、さくらに旅のいろはを教える方が良いと感じました。前述したアトラクションの例で言うところのガイドスタッフ役の誰かを別に立てて、読み手はさくらに自己投影してもらおうと考えました。
誰が適任かを考えた時に、村の長老という設定が浮かびました。さくらは図書館で本を見つけて伝説を知ったのではなく、長老の家に行った時に長老が読んでいた本から伝説を知ったという設定に変更。長老は若かりし頃に黄金バナナを探す冒険の旅に出ていて、自らの体験を元にさくらに旅のいろはを語る。この設定で漫画を進めると伝えると、すぐに大野さんがイメージイラストを描いてくれました。
台割りや絵コンテも私が担当しましたが、見開き8ページをどのような構成にしていくかは随分頭を悩ませました。
結果、漫画なので右綴じにして、1ページ目はさくらが長老の家で黄金バナナの伝説を聞く物語の序章と位置付け、2ページ目からは見開きで、右側にストーリーがあり、左側にそのストーリーに沿ったルール説明があるという構成でいくことにしました。つまり、ストーリーとルール説明を完全に分けるのではなく、リンクさせながら同時に行っていく方式です。
説明しなければいけないルールに対して、どのようなストーリーで展開していくかを考えるのですが、説明の順序とストーリーの流れを踏まえないといけないので、その構成を考えるのに一番苦労しました。
あとは、6才の子どもが読んでわかるような易しい文章にしたり、わかりやすい図解を入れるといったことに力を注ぎました。
こうして漫画説明書は大野さんと何度も何度もやりとりをしながら完成に至りました。
絵コンテ
1P 色塗り前
1P
2P〜3P
4P〜5P
6P〜7P
8P
【箱】
箱の表紙絵は「さくらの大冒険」の世界観が伝わる、ワクワク感が出るようなイラストを大野さんに依頼しました。
最初のイラスト
こちらに金の装飾フレームを追加して、伝説の物語っぽくしています。ちなみにこの装飾の柄はバナナになっています。よく見てみてください。
箱を実際に作ってみて、イメージを確認しながら3案から選びました。写真一番上を採用。
完成した箱の表紙絵
箱の身の側面も遊び心を大切に。ちらっと見えて可愛い、さくらたちのイラストを入れています。
箱の裏を見ただけでゲームの大まかな概要がわかるよう工夫しました。箱のサイズは縦26cm×横18.5cm×高さ5cm。
2019年3月。印刷所から箱の完成品が届いた時はすごく嬉しかったです。一年をかけて取り組んできた「さくらの大冒険」をいよいよ発売するんだという実感が湧きました。私にとっては子どもみたいなもので、やっと生まれるんだという感動がありました。
以上、《さくらの大冒険 開発ストーリー》でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
【最後に】
開発ストーリーを書くことで、私自身改めて「さくらの大冒険」のプロジェクトを振り返る、たいへん良い機会になりました。そこには色々な試行錯誤がありました。今回、このような形で舞台裏の物語を綴ったのは、そんな試行錯誤を見てもらうことで、今作や私たちのことをより身近に感じていただけたらという思いがあったからです。
「さくらの大冒険」は"自分が考えたゲームだから"とか"つみきやのゲームだから"とかいうわけでなく、純粋に良いゲームです。一人でも多くの方にこの魅力や楽しさが届けられたら幸いです。
これからも「さくらの大冒険」という船がよい航海を続けられるよう力を尽くしていきたいです。
そして、灯台となるような、この航海を応援してくれる方との出会いを心から願っています。
前章までの《さくらの大冒険 開発ストーリー》
vol.1 開発のきっかけ
vol.2 ルール作りの過程
vol.3 各パーツのこだわり
さくらの大冒険 商品ページ
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